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一条真也
第四則「思考力」
インターネットをはじめ、毎日のように発信される情報量は凄まじいものがある。まさに、情報の洪水だ。
そこで、上面の情報に踊らされず、その情報の真偽を判断し、さらに自分の頭で考える「思考力」が求められる。
日々の仕事においても思考力が大切で、不測の事態が起こったとき、マニュアルだけでは絶対に対応できないが、自分の頭で考える習慣さえあれば的確な判断ができる。やはり、自分の頭で考える習慣を持たなければならない。
思考力をもつためには、まず問題意識を抱くことが大切である。どんな部門であれ、それぞれの仕事において、「もっと効率を上げるには」とか「もっとミスを減らすには」、あるいは「もし、こんなトラブルが起きたら」といった課題が必ずあるはずだ。それらをいつも意識していることが大事。
リンゴが木から落ちるのを見てニュートン(1643〜1727)は万有引力を発見したというエピソードは有名だ。この話はじつは眉唾物だそうだが、ニュートンが万有引力について考え続けていたことは事実。
ニュートンは、「どのようにして万有引力を発見したのですか?」という質問に対して、「発見に至るまで、いつもいつも考えていることによってです。問題をいつも自分の前におき、暁の一筋の光が射し込み、それから少しずつ明るくなり、本当にはっきりしてくるまで、じっと待っているのです」と、答えたそうである。
結局は、「明確な問題意識と持続的な集中力」ということだろう。ある1つの問題について、すべての精神を集中して考え続けること、それが史上最大の発見につながったのである。
もちろん、ビジネス上の問題解決は、万有引力の発見とは比べ物にならないが、持続して考え続けることが必要である点はどちらも同じだ。
自分で考えるトレーニングに最適なのは、読書である。しかし、ドイツの哲学者ショーペンハウアー(1788〜1860)は、「読書とは他人にものを考えてもらうことである」と語っている。
私は、読書とは、他人にものを考えてもらえるけれども、自分でものを考える手段にもなりえると思う。他人の考えを読みながら、自分の頭を使って考える読書は十分可能だ。現に私は何も考えずに、本を読むことはできない。
その意味で、ペンで線を引きながら本を読むことが大事になってくる。つまり、線を引く部分について考えながら読まざるをえないからである。さらには、「本にメモする」「要点を書き出す」「書評レビューなどの感想を書く」といったアウトプット行為で、考える力は格段に強くなる。
それから、考えるということで忘れてはならないのは、「抽象的思考」の大切さである。一般に「抽象的」というと、あまりよいイメージをもたれないようだ。「抽象的な言葉ではなく、もっと具体的に」とか「抽象的な議論はもうヤメだ!」といった具合にである。その反対によい意味で使われるのが「現場」という言葉だろう。しかし、現場が大事なことはもちろんだが、同じく「抽象」も大事なのである。
現代人にとっては、知識よりも情報を総括して高い視点からみる力が求められる。つまり抽象度を高くして見る力が必要とされる。
「抽象度が高い」というのは、より多くの情報を包括できるということである。たとえば、「チワワ」という情報に対して、「犬」という情報は、チワワも含んでいるために、より抽象度の高い情報となる。また、犬という情報よりも「哺乳類」、さらには「生物」という情報の方が抽象度の高い情報である。
このように、情報の範囲が広ければ広いほど、抽象度が高いことを意味する。仕事における責任が大きくなればなるほど、できるだけ高い抽象度で物事を判断しなければならない。
よく「現場の視点が大事」と言われる。たしかに、その通りなのだが、チワワを見て「あっ、チワワだ!」と思うのが現場の担当者だとしたら、支配人は「チワワという種類の犬だな」と思い、担当役員は「哺乳類だ」、そして社長は「生物だ」と思うべきである。
さらに抽象的思考は哲学というものに通じている。「なぜ、この仕事をするのか」「この仕事の使命とは何か」と考えることにつながるのだ。