2010
06
株式会社サンレー
代表取締役社長
佐久間 庸和
「思考力を身につけ
情報の洪水を泳ぎきろう!」
●考えることの大切さ
先月は「情報力」についてお話しましたが、インターネットをはじめとして毎日のように発信される情報量は凄まじいものがあります。まさに、情報の洪水です。
その中には、得体の知れない匿名ブログなどの類も混じっていて、しかもそれをグーグルの検索ロボットが拾ってしまったりするわけです。
そんな怪しい情報を真に受けていたら大変ですね。そこで、上面の情報に踊らされず、その情報の真偽を判断し、意味を理解し、さらには自分の頭で考える「思考力」が求められます。
日々の仕事においても思考力が大切です。みなさんは、ただ上司の言われるままに何も考えず仕事をしていませんか?それでは、みなさんは人間ではなくロボットになってしまいます。やはり、自分の頭で考える習慣を持たなければなりません。不測の事態が起こったとき、マニュアルだけでは絶対に対応できませんが、自分の頭で考える習慣さえあれば的確な判断ができますね。
●問題意識を持つ
思考力を持つためには、まず問題意識を抱くことが大切でしょう。営業部門であれ、施行部門であれ、管理部門であれ、それぞれの仕事において、「もっと効率を上げるには」とか「もっとミスを減らすには」、あるいは「もし、こんなトラブルが起きたら」といった問題が必ずあるはずです。それらをいつも意識するか、しないかでは大違いです。
万有引力を発見したニュートンは、「どのようにして万有引力を発見したのですか?」という質問に対して、こう答えました。
「発見にいたるまで、いつもいつも考えていることによってです。問題をいつも自分の前に置き、暁の一筋の光が射し込み、それから少しずつ明るくなり、本当にはっきりしてくるまで、じっと待っているのです」と。
結局は、明確な問題意識と持続的な集中力ということでしょう。ある一つの問題について、すべての精神を集中して考え続けること、それが史上最大の発見につながったのです。
ビジネス上の問題解決は、万有引力の発見とは比べ物になりませんが、持続して考え続けることが必要である点はどちらも同じです。
●他人の頭を使う
自分で考えるトレーニングに最適なのは、読書です。しかし、哲学者ショーペンハウアーは、「読書とは他人にものを考えてもらうことである」と語っています。
わたしは、読書とは、他人にものを考えてもらえるけれども、自分でものを考える手段にもなり得ると思います。
他人の考えを読みながら、自分の頭を使って考える読書は充分可能です。現にわたしは何も考えずに、本を読むことはできません。
その意味で、赤ペンで線を引きながら本を読むことが大事になってきます。つまり、線を引く部分について考えながら読まざるをえないからです。さらには、本にメモする、要点を書き出す、書評レビューなどの感想を書く、といったアウトプット行為によって、考える力は格段に強くなります。
●抽象的思考とは何か
それから、考えるということで忘れてはならないのは、「抽象的思考」の大切さです。一般に「抽象的」というと、あまり良いイメージを持たれないのではないでしょうか。
「抽象的な言葉ではなく、もっと具体的に」とか「抽象的な議論はもうヤメだ!」といった具合にです。その反対に良い意味で使われるのが「現場」という言葉でしょう。しかし、「現場」が大事なことはもちろんですが、「抽象」も大事なのです。
脳機能学者の苫米地英人氏は、現代人にとって、知識よりも情報を総括して高い視点から見る力、つまり抽象度を高くして見る力が必要とされると述べています。
「抽象度が高い」というのは、より多くの情報を包括できるということです。例えば、「チワワ」という情報に対して、「犬」という情報は、チワワも含んでいるのでより抽象度の高い情報となります。
また、「犬」という情報よりも「哺乳類」、さらには「生物」という情報の方が抽象度の高い情報です。
このように、情報の範囲が広ければ広いほど、抽象度が高いことを意味します。
●哲学が必要となる
仕事における責任が大きくなればなるほど、できるだけ高い抽象度で物事を判断しなければなりません。よく「現場の視点が大事」と言われます。
たしかに、その通りなのですが、チワワを見て「あっ、チワワだ!」と思うのが現場の担当者だとしたら、支配人は「チワワという種類の犬だな」と思い、事業部長は「哺乳類だ」、そして社長は「生物だ」と思わなければいけない。
そして、抽象的思考は哲学というものにつながってきます。「なぜ、この仕事をするのか」「この仕事の使命とは何か」と考えることにつながります。
「近代日本最高の知性」と呼ばれた小林秀雄は、名著『考えるヒント』の冒頭で、「ソクラテスには、自分の考えも、他人の考えもない。ただ正しく考えるということだけである」と書いています。
わたしたちも、正しく考えて、情報の洪水を泳ぎきろうではありませんか!
日頃より問題意識抱きつつ
高き視点で考えるべし 庸軒