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一条真也
沈まぬ太陽と敬天愛人
山崎豊子原作の映画「沈まぬ太陽が公開された記憶も新しいが、作品のモデルとなった日本航空がついに破綻した。事業会社としては過去最大の2兆3221億円の負債を抱え、会社更生法の適用を申請した▼会長には、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏が就任する。大半の経営者は本当の意味での哲学を持っていない。そんな現状で、稲盛氏は経営における倫理・道徳というものを本気で考え、かつ実行している稀有な経営者であろう▼かつて、鐘紡の伊藤淳二会長が日航会長に就任した。520人もの犠牲者を出した史上最悪の航空事故である御巣鷹山の墜落事故の直後だった。しかし組合が乱立する労務対策に失敗して、伊藤会長は早々に辞任している。会社にも悪いところがあり、組合にも悪いところがあった▼「会社は社会のもの」「人が主役」と喝破したのはドラッカーである。会社とは、人間を幸せにするために存在しているのだ。「なぜ、会長を引き受けたのか」との質問に、稲盛氏は「日航の社員を幸せにしたいから」と答えた▼功なり名を遂げた人物にとって、あまりに過酷な道が待つ。稲盛氏が敬愛する西郷隆盛の「敬天愛人」の哲学で、再生したJALの翼が再び世界の空を飛ぶことを願う。(一条)
2010年2月10日