2008
10
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「すばらしきビューティフル・ネーム

 すべての人を名前で呼びかけよう!」

●バースデーカードに思うこと

 今年から全社員のみなさんにバースデーカードを書いています。みなさんの名前を書きながら、思うことがあります。
 まずは、「世の中には、本当にいろんな名前があるなあ」ということ。そして、「この名前には親御さんの心が込められているのだなあ」ということです。ゴダイゴの名曲「ビューティフル・ネーム」を思い出してしまいます。
 当然ながら、名前のない人はいません。すべての人には名前があり、その名前には何らかの意味があります。じつはわたしは、名前というのは、世界最小の文芸ではないかと思っています。
 日本では短歌や俳句が浸透していますね。わたしは短歌を好みますが、普通の高齢者で俳句をやられていて、新聞などに投稿している方が多く存在します。それを見た外人は、「ジャパニーズは全員が詩人なのか」と感心するそうです。
 たしかに短歌ならば31字、俳句だと17字の詩歌の「かたち」を国民が共有しているというのは、すごいことです。

●名前には親の願いが宿る

 でも、名前は俳句よりさらに短いわけです。そして、名前は必ずつけますから、俳句よりさらにポピュラーです。
 もちろん、姓名判断のプロに頼む人もいるでしょうが、普通に結婚して子どもを授かる人ならば、だいたい命名というものに直面しますね。そこで、いろいろ頭を悩ませます。これは文芸における創作の苦労とまったく変わりません。
 誰でも、子どもに納得のいく名前をつけようとします。先祖や親の名前とか生まれた季節にちなんだり、たとえば「仁」「義」「礼」とか「真」「善」「美」といったハートフル・キーワードを入れようとしたり、語感で飾ろうとしたりするわけです。
 すなわち、名前とは親が「このような人間に成長してほしい」という願いを込めた文芸作品なのです。詩には詠む者の志が宿るといわれますが、名前には親の願いが宿るのです。かつて、わが子に「悪魔」ちゃんとつけようとした馬鹿親がいましたが、あれはあれでまさしく彼の文芸だったわけです。
 わたしの庸和という名は「バランス・アンド・ピース」という意味ですが、人の名前にはすべて素敵な意味があり、素晴らしいメッセージを発しているのです。

●自分の名前が最も心地よい

 人間にとって最も目に心地よい映像は自分の姿であり、最も耳に心地よく、最も大切な響きを持つものは自分の名前だといわれます。
 アメリカの鉄鋼王・アンドリュー・カーネギーは、子どもの頃から人を組織し、統率する才能を示していました。
 10歳のときにはすでに、人間というものは自分の名前に並々ならぬ関心を持つものだということを発見しており、この発見を利用して他人の協力を得ました。
 スコットランドにいた少年時代、彼はウサギを捕まえましたが、そのメスウサギは妊娠したメスで間もなくたくさんの子ウサギで小屋が一杯になったのです。すると、餌が足りません。そのとき彼は、近所の子どもたちに対し、ウサギの餌になる草をたくさん取ってきた者の名を子ウサギにつけるというアイディアを思いつき、この計画は見事に成功しました。
 後に経営者となったカーネギーは、自分の下で働く多数の労働者たちの名前を全部覚えていることを誇りにしていました。そして、彼が陣頭指揮を取っているあいだ、ストライキが一度も起こらなかったと自慢でした。
 日本でも、かの田中角栄は驚異的な人数の名前を覚えていたそうですが、成功者の必要条件といえるでしょう。

●名前で人を動かす

 みなさんは、冠婚葬祭や互助会募集の現場において、お客様の名前をきちんとお呼びしていますか。単に「お客さん」とか「お客さま」とか呼んでいませんか。相手の名前がわかっている場合は、必ず名前で呼んでください。
 青木さんという方が当社の施設に来られたら、「いらっしゃいませ」ではなく、「青木さま、いらっしゃいませ」と迎えてください。お礼を述べるときも、「ありがとうございます」ではなく、「青木さま、ありがとうございます」です。サービス業の基本ですね。
 お客さまだけではありません。会社の上司、同僚、部下などをきちんと名前で呼んでいますか。部下の山本さんに何か仕事を依頼するときも、「君、頼むよ」ではなく、「山本さん、お願いします」というべきです。

●名前を呼ぶことは、人間尊重

 これは、家族でも友人でも知人でも同じこと。人を呼ぶときは、必ず名前で呼んでください。相手を名前で呼ぶことこそ、サービス業を超えた「人間尊重」の基本中の基本なのです。
 耳のごちそうとして、音楽や愛語といったものがあります。でも、お客様にとっても、会社の同僚にとっても、家族や友人・知人にとっても、自分の名前くらい良い響きのするものはありません。
 逆に苦手なお客様がいればその方の名前を何度もお呼びしてください。ソリの合わない同僚がいれば、その名を呼んでください。夫婦仲が冷えていたら、相手の名を心を込めて呼んでください。
 ぜひ、あなたの周囲のすべての人を名前で呼びましょう。そうすれば、仕事も人間関係もきっとうまくいくはずです。

  ここちよき耳のごちそう数あれど
    わが名に勝る良き響きなし  庸軒