2007
12
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「信条(クレド)ある企業だけが繁栄する

 サービス業ほど素敵な商売はない!」

●リッツ・カールトンの秘密
 少し前の全国冠婚責任者会議で、リッツ・カールトンの話をしました。世界最高のサービスを提供すると言われるホテルです。
 今年、東京の六本木ミッドタウンにオープンしましたが、世界中には70ものリッツ・カールトンが存在します。そのいずれもが最高レベルのサービスで知られていますが、それには大きな秘密があります。従業員が常に携帯している「クレドカード」です。
 クレドカードの表面には「モットー」、リッツ・カールトンの基本的理念をあらわす「クレド」、「従業員への約束」、「サービスの3ステップ」が記されています。
 裏面には、リッツ・カールトンで働く従業員にとって指針となる「サービス・バリューズ」の12項目が記されています。
 詳しく知りたい方はネットでも見れますし、関連書籍もいろいろと出ています。

●クレドこそリッツ・カールトンの命
 リッツ・カールトンの「クレド」は今やとても有名ですが、その語源はラテン語です。カトリックのミサの信仰宣言(Credo)の初めの句、「われは信ず」に由来しています。「クレド」の全文は次の通りです。
「リッツ・カールトンはお客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することをもっとも大切な使命とこころえています。
 私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだそして洗練された雰囲気を常にお楽しみいただくために最高のパーソナル・サービスと施設を提供することをお約束いたします。
 リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの、それは、感覚を満たすここちよさ、満ち足りた幸福感そしてお客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心です。」
 この「クレド」はリッツ・カールトンにおける理念、使命、そしてホスピタリティの基盤を凝縮したエッセンスと呼ぶべき信念です。
 この思想を実践しているゆえにリッツ・カールトンは世界最高のホスピタリテイ企業と認められているわけです。まさに、リッツ・カールトンの命ですね。
 当社の経営理念である「S2M」も決して負けてはいないと思いますが、あとは、どう実践に移すかですね。ここが難しいところです。

●加賀屋の接客十戒
 冠婚責任者会議では、加賀屋の話もしました。日本で最高に人気のある旅館ですね。数年前、サンレー北陸の社員旅行で行きました。日本で最初にISO9001を取得したホスピタリテイ企業でもあります。
 加賀屋の接客係には、ただ者ではないプロ中のプロが何人もいますが、その中に石川県で唯一の女性の観光マイスターである岩間慶子さんという方がいます。
 かのモーセはユダヤ人に「十戒」をもたらしましたが、岩間さんは加賀屋に「接客十戒」をもたらしました。 それは、次のとおりです。
 一、社員の働く気を起こさせる
 二、自分は経営者
 三、「マニュアル」プラスアルファ
 四、心のマッサージ師に徹する
 五、好きでなければ、いい仕事はできない
 六、「ありません」「できません」は言わない
 七、一生懸命には信頼がついてくる
 八、お客様の会社の一員として
 九、頭を下げるのにお金はいらない
 十、生きがいが人をつくる
 岩間さんは、「建物が立派でも料理だけがおいしくても、旅館はだめ。マニュアルという土台の上に、一人ひとりがどんな魅力的な一夜を演出できるか、そんな生きがいを持った人を育てていきます」と述べています。

●哲学こそ、サービス業の最大の武器
 世界一のホテルであるリッツ・カールトン、日本一の旅館である加賀屋、いずれも最高レベルのハードを備えた企業です。  しかし、それぞれ最大の武器にしているものとは施設という「ハード」ではなく、料理などの「ソフト」でもなく、そこで働く人々の心という「ハート」であり、それを支える信条としての「クレド」なのです。
 リッツ・カールトンのクレドカードの「モットー」には、「紳士淑女にお仕えする我々も紳士淑女です」との一文があります。
 お客様に対しへりくだり召し使いのように接するのではなく、同じ目線、同じ感性で紳士淑女として信頼関係を築くことこそが誠意あるおもてなしにつながっていく。対等という意識を持つことで、おのずと立ち居振る舞いや行動、人間としての生きる姿勢にも誇りが備わっていくのです。
 「すべてはお客様のために」を信条とする加賀屋では、「小さな子ども、お年寄り、身体障害者に優しくあれ」と心がけているとか。

●思いやりを形にする仕事
 私は、最近、「人類の教師たち」と呼ばれる偉大な人々、すなわち、ブッダ、孔子、老子、ソクラテス、モーセ、イエス、ムハンマド、聖徳太子の思想を徹底的に調べました。
 彼らはいずれも人間の平等を訴え、「慈悲」や「仁」や「愛」を人類に説きました。それらの思想はつまるところ「思いやり」であり、その「思いやり」を形にしたものが「礼」であり、「ホスピタリティ」です。まさにそれを実践しているのは、現在、接客サービス業に従事している私たちなのです。
 人間が人間にサービスする、これほど素晴らしい仕事はありません。また、これほど面白い仕事もありません。
 かつて、「ショウほど素敵な商売はない」という映画がありましたが、サービス業ほど素敵な商売はないと思いませんか。

  すばらしき人をもてなす人もまた 
     紳士淑女と 知りて励まん  庸軒