2007
10
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「本を読めば時間ができる

 読書で大いに自分を高めよう!」

●孔子とドラッカーによる経営
 10月27日から11月9日まで、「読書週間」です。みなさんは日頃、本を読んでいますか。私はとにかく毎日、読んでいます。
 私はこれまで読書によって、人生のさまざまな岐路をくぐり抜けて来たように思います。
 社長に就任してすぐ読んだのは、ドラッカーの『ネクスト・ソサエティ』でした。非常に感銘を受け、『ハートフル・ソサエティ』というアンサー・ブックまで書いたほどですが、その後、ドラッカーの全著作を読破しました。40歳になる直前には、『論語』を読み、これまた感ずるところ大で、一気に40回も読み返しました。孔子とドラッカーは私に大きな影響を与え、当社の経営もこの二人の思想に沿って行ってきました。

●七人の用心棒
 世界のクロサワの名画に「七人の侍」と「用心棒」という作品がありますが、私には「七人の用心棒」がいます。すなわち、ピーター・ドラッカー、フィリップ・コトラー、マイケル・ポーター、安岡正篤、中村天風、松下幸之助、稲盛和夫の七人です。孔子、孟子、王陽明といった超大物は別格として、何か経営上で困った問題が発生したとき、彼らの本を読めば、たいていの問題は解決します。
 私は本を読むときに、その著者が自分ひとりに向かって直接語りかけてくれているように感じながら読むことにしています。高い才能を持った人間が、大変な努力をして勉強をし、ようやく到達した認識を、二人きりで自分に丁寧に話してくれるのです。何という贅沢でしょうか!だから私は、昔の日本の師弟関係のように、先生の話を正座して一人で聞かせていただくのです。「七人の用心棒」は、七人の心の師でもあるのです。

●レバレッジ・リーデイングとは?
 「七人の用心棒」のうち、ドラッカーはマネジメント、ポーターは競争戦略論、コトラーはマーケティングの大家です。つまり、彼らの本はビジネス書ですね。松下幸之助、稲盛和夫といった方々は実際に経営で大成功しており、その著書もまたビジネス書です。
 ベストセラーになった『レバレッジ・リーデイング』の著者である本田直之という人は、読書は最高の自己投資だと言っています。本を読むことは自分に投資することです。それは、このうえなく割りのいい投資であり、どんなに利率のいい金融商品に投資するよりも、確実に多くのリターンをもたらすというのです。
 ビジネス書の値段は、だいたい1,200円から1,800円です。仮に一冊1,500円とします。この1,500円の本から学んだことをビジネスに生かせば、元が取れるどころか、10倍、いや、100倍の利益が返ってきます。これは、いわゆる成功者の人々が実感している数値です。百倍ということは、1,500円が15万円になるのです。つまり、わずか1,500円に価値が隠されているのです。
 読書ほど格安の自己投資はありません。

●本を読めば時間ができる
 よく「読書が大事なことはわかっているけれど、忙しくて読むヒマがない」と言う人がいます。しかし、これは本当は逆なのです。本当は、「本を読まないから時間がない」のです。ビジネス書には、努力の末に成功した人の知識や経験やノウハウがたくさん書かれています。その人が何年も何十年もかけて体得した奥義を、わずか一冊の本を読むだけで得ることができるのです。そのうえで自分なりの工夫を加えれば、早くて最小の労力で成功にたどり着ける。その結果、時間の余裕が生れるわけです。それなのに、本を読まない人は、せっかく本に良い方法が書いてあるにもかかわらず、最初からすべて自分一人で試行錯誤しながらやろうとする。要領が悪いこと、この上なしです。
 それは「不労所得」と「勤労所得」のようなものかもしれません。本を読まなければ「勤労所得」のように、毎回自分でゼロからいろいろ試行錯誤して、実行することでリターンを得ることになります。しかし、本を読むことで、「不労所得」のように、蓄積してきた「パーソナル・キャピタル(自己資産)」を働かせることにより、少ない労力で大きなリターンを得ることができるようになるのです。

●賢者は歴史に学ぶ
 しかし、もちろんのことですが、読書は金のためにするものではありません。その最大の目的は、自分を高めることにあります。 生物のなかで人間のみが、読書によって時間を超えて情報を伝達できるのです。人間は経験のみでは一つの方法論を体得するのにも数十年かかる。でも、読書なら他人の経験を借りて一日でできるわけで、読書はタイム・ワープの方法に他なりません。特に歴史の本は他人の経験や知恵の宝庫と言えます。
 プロイセンの鉄血宰相ビスマルクに「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という有名な言葉があります。西欧の人々は主にローマ帝国の衰亡史などを参考に人間理解をしてきました。日本人は『十八史略』や『三国志』などの中国の歴史書によって人間研究をしてきました。「驕(おご)る平家は久しからず」という言葉がありますが、歴史を知れば傲慢になることを防ぎ、さらには非常識な行為や馬鹿な真似をすることもないはずです。つまり、知恵がつくのです。西洋史でも中国史でも日本史でも、ぜひとも、すぐれた歴史の本を読んで、賢者になって下さい。
 秋の夜長は、飲酒や喫煙やギャンブルだけでなく、本をたくさん読んで、大いに自分を高めましょう!

 酒よりも煙草吸うより博打より
    おのれ高める本を読め読め  庸軒