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一条真也
イラクと沖縄

 

「花も嵐も」で始まる古い歌があった。井伏鱒ニは「ハナニアラシノタトヘモアルゾ」と詩に詠んだ。日本列島が満開の桜を楽しんでいる頃、遠いイラクの砂漠では砂嵐が吹き荒れ、米英軍が立ち往生している▼とうとう始まってしまった新世紀の戦争には、とてつもなく古代のイメージが漂う。アレクサンダーやシーザーの時代、飛びぬけて軍事力の強い帝国がはるばる遠方の地まで出かけ、力でねじふせて勢力下に置く。古代帝国が今の米国と重なる▼しょせんは、石油戦争。サウジに次いで原油埋蔵量二位のイラクを攻撃するブッシュは、石油資本に支えられた大統領。戦争に反対した仏露にしても、イラクの油田開発事業で先行していた。石油のために人間の血が流れている▼そんな花と嵐のさ中、悲惨な戦争経験を乗り越えた島・沖縄に行った。米国同時多発テロで激減した観光客がやっと戻って来たのも束の間、戦争で再び修学旅行などのキャンセルが相次いでいる。理由はもちろん米軍基地の存在だ▼一月に咲く沖縄の桜はとうに散ったが快晴の日曜日、結婚式に立ち会った。宴の最後は参列者全員によるカチャーシー。泡盛に心地良く酔い、笑顔で踊る人々を見ながら、これが平和なのだと思った。
2003年4月10日