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一条真也
千の風になって
「千の風になって」という不思議な歌がブームである。昨年のNHK「紅白歌合戦」で歌われて以来、オリコン・チャートの一位を独走している。「私のお墓の前で泣かないでください」というフレーズから始まる詩は、死者から生者へのメッセージとなっている▼自分は千の風になって、あの大きな空を吹きわたっている。秋には光になって畑にふりそそぎ、冬にはダイヤのような雪になる。朝は鳥になって、あなたを目覚めさせる。夜は星になって、あなたを見守る。私は死んでなんかいないのだから、泣かないでください、というのだ▼もともと、作者不詳の詩としてアメリカでは有名だった。『あとに残された人へ 1000の風』(三五館)という本で初めて日本に紹介され、それを読み感動した作家の新井満氏が、新訳に曲をつけた。いま、「悲しみ」を癒す歌として全国各地の葬儀で流されている▼詩の世界観は自然崇拝のアニミズムに通じる。作者はアメリカの先住民と推測されているが、日本人が古くから持っていた感覚でもある▼戦後の日本には、ずっと「死後の物語」がなかった。しかし、日本人の心中に物語への渇望があったからこそ、この歌にいちじるしく反応したのではなかろうか。(一条)
2007年2月10日