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一条真也
バーチャルからリアルへ
命を奪ったのも奪われたのも六年生の女の子だった。長崎県佐世保市で同級生殺害事件は、同じ小六の娘を持つ私の心に大きな衝撃を与えた。十一歳と十二歳。これから青春を迎える早春というべき年齢で、一人はいかようにも花開いただろう人生の蕾を理不尽にも散らされ、一人は罪を背負って、長い残りの季節を生きる▼なぜ、こんな悲劇が起きたか。さまざまな意見が出ているが、子どもの「死」についての理解があまりにもなさすぎることが原因の一つではないか。リセットボタンを押せばキャラクターが生き返るゲームと違って、人間や動物を刃物で刺せば大量に出血し、あっけなく死ぬのである▼核家族化、病院中心の高度医療の発達、食材流通システムの変化などで「死」の場面から遠ざけられた子どもは、この当たり前のことを学ぶ機会に乏しい。いっそ、子どもたちに日常的に葬儀の見学をさせ、生命の尊さを学ばせたらどうだろうか▼二人の少女はパソコンのチャット仲間だったというが、バーチャルを超えたリアルが冠婚葬祭という営みである。被害者の父は「娘の告別式はしない」と言い、初面会した加害者の父は「毎晩手を合わせるんだよ」と言ったという。それを聞いて、涙が出た。
2004年6月10日