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一条真也
心の闇はほどけたか

 

七年前の衝撃は今もおぼえている。神戸の連続児童殺傷事件の異様さは当時の日本社会を震撼させた。犯人は、中学校の正門前に被害者の遺体の一部を残し「酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)」を名乗って、警察への挑戦状をマスコミに送りつけた。逮捕されたのは中学三年の少年だった。当時十四歳の彼は六年五ヵ月の矯正教育を経て二十一歳になり、医療少年院を仮退院した▼彼は犯行当時、他人を傷つけることによって快感を得る「性的サディズム」といわれる倒錯した心理にあったというが、事件直後から「心の闇」という言葉が流行した。彼の「心の闇」は一体どのような構造をしており、どのようなプログラムの更生教育を受けたことで、その闇がほどけたのか。そして、どんな経緯をたどって社会復帰が可能と判断されたのか▼山下彩花(やましたあやか)ちゃんを奪われた母は「あなたを決して許すことはできません。その一方で、どんなに時間がかかっても、あなたを更生させてやりたい」と述べている。娘が生きた時間が社会に人間への絶望を残すだけではつらいというのだ▼成人になった男性が真に人間としての再生の道を歩むならば、それは私たちに人間への希望をよみがえらせる。彼は途方もないミッションを背負っている。
2004年4月10日