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一条真也
感染症の道

 

狂牛病(BSE)に鳥インフルエンザ。食の安全への信頼が根底から揺らいでいる。新型肺炎(SARS)の原因はハクビシンとされているが、いずれも家畜や野生動物から人にうつる「人畜共通感染症」である。この新世紀の悪魔は毎年のように出現し、人類を襲っている▼背景には、食の多様化や自然環境の破壊で人間と動物との距離が縮まったことや、地球温暖化、輸送・交通網の発達によって、病原体の生きる地域が拡散したことなどがあるという。人間の営みが新たなウイルスの登場を引き起こしているのだ▼特に心配なのが、山口県で発生した鳥インフルエンザ。ウイルスが人から人にうつるタイプに変身するかもしれないのである。二十世紀に最大の被害をもたらしたスペイン風邪は一九一八年に発生し、一年間に全世界で六億人がかかり、三八万人の日本人を含む二三〇〇万人の死者を出した。その後に世界的大流行となった五七年のアジア風邪、六八年の香港風邪なども含めて、その原因となるウイルスのルーツは鳥にあると見られている▼日本、韓国、ベトナム、タイと、ウイルスの発見地を地図にしるしてみると、稲やお茶の伝播ルートと重なる。文明の回廊とは、感染症の道でもあったのだ。
2004年2月10日