第1回
一条真也
「花は天国のものである」
本誌「ハートライフ」は季刊です。つまり、春夏秋冬の四つの季節にあわせて刊行されるわけです。
わたしが好きなフランスの思想家アランによれば、季節とは人間が世界と結ばれる時であり、季節は固有のリズムをもっているそうです。このリズムに従って、人間に見合った叡智(えいち)が芽を出し、生長し、開花し、埋葬され、再生するというのです。つまり、季節というテーマからは、人間が生きるためのヒントが見つかりやすいのでしょう。
わたしも、それぞれの季節にしたがって、叡智とまではいかなくとも、心ゆたかな人生のためのヒントをこれからお届けしたいと思います。
まずは、春からです。春といえば、なんといっても、花ですね。冠婚葬祭業というのはとにかく花と縁が深いこともあり、わたしも男ながらに花には興味があります。というより、花が大好きです。わたしの趣味のひとつにガーデニングがありますが、わが家のささやかな庭にはさまざまな花が植えられています。
一年を通じてその季節ならではの花を楽しんでいますが、四月の中旬になれば、庭で一番の老木である桜が花を咲かせはじめます。
わたしは、四月だけのために一年中、この厄介(やっかい)な桜の木に耐えているといっても過言ではありません。夏には毛虫、秋には毎日落ちてくるうっとおしい落葉の掃除にもじっと耐えているのは、この四月に開花するわずかな期間の感動のためなのです。
数日間あたたかい日が続くと、またたく間に桜は満開になります。見上げると、空の青に桜の薄いピンク、その色のコントラストの見事さに時の過ぎるのも忘れて見とれてしまいます。そして、さらに美しいのは、散りゆく桜の花びらが風が吹くたびに文字通りの桜吹雪になって宙に舞うときです。
くるくる舞いながら無数の花びらが落ち、やがて地面は薄いピンクのカーペットになってしまいます。そのさまを見て、わたしは「人の人生も桜と同じだなあ」としみじみ思いました。そして、ピンクのカーペット上で「花は咲き やがて散りぬる 人もまた 婚と葬にて 咲いて散りぬる」という短歌を詠んだことがあります。
桜が散る頃、ときを同じくして、秋に球根を植えたチューリップが咲き、パンジーやリナリアやプリムラといった一年草が花壇を飾ります。これまでの冬のモノトーンの世界からやっとカラフルな世界が出現するさまは、まるで映画「オズの魔法使い」でジュディ・ガーランド扮(ふん)する少女ドロシーが愛犬トトと一緒にマンチキンランドに足を踏み入れたとたんに映画が白黒から総天然色に一変する場面を連想させます。そして、目いっぱい色のある庭に歓喜しながら、わたしは春の息吹を体じゅうで感じるのです。
五月になれば薔薇(ばら)とストロベリーキャンドルが咲きだします。薔薇は虫が付きやすく厄介ですが、消毒と冬のあいだの肥料と簡単な剪定(せんてい)をしてやれば、意外と元気に咲き誇ります。かつて、珍しいオールドローズがはじめて咲いた日は狂喜して、庭でウクレレを弾きながらマイク真木の「バラが咲いた」を歌ったものです。
かくも花を愛しているわたしですが、いつも思うことがあります。それは、花はこの世のものにしては美しすぎるということです。臨死体験をした人がよく、死にかけたとき、「お花畑」を見たと報告しています。きっと、花とはもともと天国のものなのでしょう。天上に属する花の一部がこの地上にも表れているのだと思います。そうでないと、ただならぬ花の美はとても理解できません。
結婚式やお葬式の会場にたくさんの花を飾るのも、式場を天国に見立てるためなのですね。ですから、結婚式でもお葬式でも、できるだけ多くの花を飾りましょう!
花によって、そこには天国の波動が満ちるのですから。