第22回
一条真也
『マッチ売りの少女』

 アンデルセン/矢崎源九郎訳(新潮文庫)

 もうすぐクリスマスですね。この季節にふさわしい物語といえば、何といってもアンデルセンの「マッチ売りの少女」です。とても有名な童話の名作です。
 雪の降るおおみそかの晩、街をさ迷うみすぼらしい身なりのマッチ売りの少女がいました。少女は寒さのあまり、一本も売れなかったマッチをともして暖をとろうとします。
 マッチをともすたびに、きれいな部屋、ごちそう、クリスマスツリーなどの不思議な光景が浮かんできます。そして最後には、亡くなったはずの懐かしいおばあさんの姿が浮かんできました。翌朝、街の人々は少女の亡骸を目にします。
 最後には、こう書かれています。
「この子は暖まろうとしたんだね。と、人々は言いました。けれども、少女がどんなに美しいものを見たかということも、また、どんな光につつまれて、おばあさんといっしょに、うれしい新年をむかえに、天国にのぼっていったかということも、だれひとり知っている人はありませんでした」(矢崎源九郎)
 この短い童話は、いろんなことをわたしたちに教えてくれます。まず、「死は決して不孝な出来事ではない」ということ。伝統的なキリスト教の教えではありますが、「マッチ売りの少女」は、「死とは、新しい世界への旅立ちである」ことを気づかせてくれます。
 さらに、この物語には二つのメッセージが込められています。一つは、「マッチはいかがですか?マッチを買ってください!」と、幼い少女が必死で懇願していたとき、通りかかった大人はマッチを買ってあげなければならなかったということです。少女の「マッチを買ってください」とは「わたしの命を助けてください」という意味だったのです。これがアンデルセンの第一のメッセージでしょう。
 第二のメッセージは、少女の亡骸を弔ってあげなければならないということ。行き倒れの遺体を見て見ぬふりをして通りすぎることは人として許されません。死者を弔うことは人として当然です。
 このように、「生者の命を助けること」「死者を弔うこと」の二つこそ、国や民族や宗教を超えた人類普遍の「人の道」なのです。