第12回
一条真也
『悼む人』天童荒太著(文藝春秋)
「いたむひと」と読みます。「哀悼」や「追悼」の「悼む」です。
第140回直木賞を受賞した小説で、日本全国の死者を「悼む」旅を続ける青年が主人公です。彼は、新聞記事などで知った殺人や事故の現場に出向き、死者が「誰に愛されていたか」「誰を愛していたか」「どんなことをして人に感謝されたか」を尋ね、「悼み」の儀式を行います。
そんな彼を偽善者とする雑誌記者、彼の家族、夫を殺した女性など、さまざまな登場人物との関係が淡々と描かれています。静かな物語ですが、「生とは何か」「死とは何か」、そして「人間とは何か」といった最も根源的な問題が読者につきつけられます。
これらは、これまで哲学者たちや宗教者たちによって語られてきました。しかし、著者は文学の力によってこの深遠なテーマに極限まで迫っています。その点は、ベストセラーになった前作『永遠の仔』にも共通しています。
本書を読んで、わたしは非常に驚きました。わたしが常日頃から考え続けていることが、そのまま書かれていたからです。それは、「死者をわすれてはいけない」ということ。
そして、主人公の「悼む」儀式が、各地の名所旧跡で過去の死者たちのために鎮魂の歌詠みを続けるわたしの行いを連想させたからです。
モントリオール国際映画祭でグランプリを受賞し、アカデミー外国語映画賞候補である『おくりびと』を観たときと同じか、それ以上の深い感動をおぼえました。
病死、餓死、戦死、孤独死、大往生・・・時のあけぼの以来、これまで、数え切れない多くの人々が死に続けてきました。わたしたちは常に死者と共に存在しているのです。絶対に、彼らのことを忘れてはなりません。死者を忘れて生者の幸福などありえないと、わたしは心の底から思います。
日本において映画界に『おくりびと』が、文学界に『悼む人』が誕生したことは、大きな事件でした。わたしは、これからも、あらゆる死者を「送る」ことと「悼む」ことの意味と大切さを考え続けてゆきたいと思います。