第8回
一条真也
「父に見せたDVD」
ある結婚式のエピソードです。
新郎新婦にとって、披露宴で一番思い入れのある演出はヒストリーDVDの作成でした。そこには幼い頃から結婚に至るまで、家族と一緒に写したたくさんの写真とコメントがつづられていました。
挙式の7日前、「むすびびと」は新郎のお父様が末期ガンで出席が難しいと告げられました。でも、両家の家族一同はきっと出席できると信じて準備を進めてきました。
式前日の夕方、「医師から今晩が山だと言われました。作成したDVDを父に見せたいのですが...」と新郎新婦から打ち明けられました。そして当日、新郎は「昨晩、静かに息を引き取りました。DVDも見せることができませんでした。母は父の傍らにいます。僕は父の死をゲストに伝えず、今日一日笑ってみせます」と言い、実際、見事に笑顔で通しました。披露宴がお開きになった後、自宅で眠るお父様にDVDを見せ、お母様は「お父さんも一緒に出席してたよね」と語りかけ、声をあげて泣かれたそうです。
たとえ、結婚式の会場にはいなくとも、父親の魂は天国から2人の門出を祝福していた。「むすびびと」は、今もそう信じています。