第7回
一条真也
「ランドセルに『いってらっしゃい』」
あるお葬式のエピソードです。
6歳の男の子が亡くなりました。4月からピカピカの1年生。卒園して春休み半ばの3月下旬、友達と元気よく外で遊んでいた男の子。その夜、急に咳と熱が出て、両親は風邪だと思っていましたが、入学式前々日の夜、突然容体が急変し、帰らぬ人となりました。
新人の「おくりびと」が打ち合わせに伺ったのですが、両親は息子さんの死を受け入れられず、あまりのショックでぼう然自失状態でした。口にされるのは、「もうすぐ退院だ」と言って、それを信じていた担当医への憎しみと恨みだけでした。彼は仕方なく、おじいちゃん、おばあちゃんと打ち合わせしたそうです。
入学式前日の通夜には、多くの友達、そしてお父さん、お母さん方が弔問に来てくださいました。その「おくりびと」は小学生のランドセル姿を見るたび、祭壇に飾ったランドセルを思い出すそうです。おじいちゃん、おばあちゃんに買ってもらったランドセル。嬉しくて嬉しくて、自宅でも背負っていたランドセル。
最後の出棺前にお母さんがお棺の中にランドセルを納め、そっと男の子にかけた言葉は「いってらっしゃい」でした。