第2回
一条真也
「儀式」
あなたの愛する人の葬儀は、もう終わりましたか?終わっているなら、あなたは確実に癒されます。終わっていなければ私からの手紙を読み、葬儀のもつ深い意味を知り、愛する人をきちんと送り出してあげてください。
●葬儀のもつ深い意味
葬儀には四つの役割があるとされています。「社会的な処理」「遺体の処理」「霊魂の処理」、そして「悲しみの処理」。その中であなたにとって必要なのは「悲しみの処理」です。
愛する人を亡くした人の心は不安定に揺れ動いています。その心を安定させるためには、死者がこの世から離れていくことをくっきりとドラマにして見せなければなりません。ドラマによって「かたち」が与えられると心はその「かたち」に収まり、すると人はどんな悲しみも乗り越えていけるのです。それはいわば「物語」の力だといえるでしょう。
たとえば、日本の葬儀の九割以上を占める仏式葬儀は「成仏」という物語に支えられてきました。
愛する人が亡くなることは、あなたの住む世界の一部が欠けるということです。欠けたままの不完全な世界に住むことは精神の崩壊を招きます。葬儀とは、儀式によって悲しみの時間を一時的に分断し、物語の癒しによって不完全な世界を完全な状態に戻すのです。
●葬儀をあげて人の道を歩む
葬儀というものを人類が発明しなかったら、おそらく人は発狂して、とうの昔に絶滅したかもしれませんね。また、葬儀は遺された人々のバラバラになりそうな悲しみの心を繋ぎ合わせる役目も果たし、悲しみのどん底で引きこもろうとする人を社会に引き戻す力となります。
さらに、孟子は人の道を歩む上で一番大切なことは親の葬儀をあげることだと述べ、史上最高の哲学者・ドイツのヘーゲルも、孟子同様に「親の埋葬理論」を説いています。約6万年前にネアンデールタール人が死者に花を手向けた瞬間からサルが人になったとも言われるほど、葬儀は「人類の精神的存在基盤」なのです。
古代から死者を弔うのは人間だけです。人間とは葬儀を行う動物であり、葬儀を行うから人間なのでしょう。愛する家族の葬儀をきちんと終えたあなたは、立派に人の道を歩まれたのです。
これから葬儀をあげる方は、その意味をしっかりと知り、堂々と人の道を歩まれてください。