第8回
一条真也
「愛語は慈しみの心から」

 

 前回、江戸しぐさにおける「世辞」を紹介しました。それに通じるのが、今回の「愛語」です。「愛語」とは仏教の言葉で、日本曹洞宗の開祖である道元の「正法眼蔵」に出てくる言葉ですが、後に良寛が重要視したことで知られています。
 「愛語」は、他人に対してまず慈愛の心を起こすことが大切です。そして、愛のある言葉をかけるのです。例えば、新聞配や宅配便の人に「いつもご苦労さま」、外食した際に「ごちそうさま」など、感謝の言葉をかけます。あいさつする時の「お元気ですか」とか「お大事に」なども愛語ですし、別れ際に「ごきげんよう」や「お気をつけて」と声をかけるのも愛語です。よいことに恵まれた人がいたら、「おめでとう」「よかったね」という愛語で祝福する一方、努力したのに報われなかったり、ひどい災難に遭ってしまったりした人がいたら、「大変でしたね」「つらいことでしたね」という愛語でいたわります。
 道元によれば、愛語を使うことは愛情の訓練につながり、言葉一つで相手に元気を与えているのだそうです。言葉遣いそのものにも人間の徳が表れるわけですね。言葉には不思議な力が宿ります。日本ではそれを「言霊(ことだま)」と呼びました。