第6回
一条真也
「江戸しぐさに学ぶ」
江戸しぐさをご存知ですか。それは、江戸の商人を中心とした町人たちの間で花開いた「思いやり」のかたち。出会う人すべてを仏の化身と考えていた江戸の人々は、失礼のないしぐさを身につけていました。しぐさは、普通「仕草」と書きますが、江戸しぐさの場合は「思草」と書きます。「思」は思いやり、「草」は行為・行動を意味します。つまり、思いやりがそのまま行いになったものなのです。
代表的なしぐさでは、「傘かしげ」が有名です。雨や雪の日に道ですれ違うとき、お互いに傘を外に向けること。しずくがかからないようにとの配慮です。「こぶし腰浮かせ」も知られています。乗合船で後から乗ってきた客のために、先客たちがこぶしを一つ分腰を浮かせて詰め合わせ、この配慮に対し、後の客は礼を述べてから座りました。現代では、電車など公共交通機関で求められるマナーです。
また、江戸しぐさには「うかつあやまり」というのがあります。例えば人に足を踏まれたとき、どうすればいいでしょうか。踏んだ人が謝るのは当然ですが、踏まれた人も「私もうかつでした」と謝るのです。こうすれば角が立たず、トラブルになりようがありません。現代でも、江戸しぐさに学ぶ点は非常に多いのです。