第5回
一条真也
「相手を名前で呼んでいますか?」
あなたは、人を呼ぶとき、必ず名前で呼んでいますか?当然ながら、名前のない人はいません。すべての人には名前がありますが、その名前には何らかの意味が込められています。
わたしは、名前は世界最小の文芸ではないかと思っています。日本では短歌や俳句が浸透していますね。短歌ならば31字、俳句だと17字の詩歌の「かたち」を国民が共有しているというのは、すごいことだと思います。でも、名前で17字もある日本人はいません。つまり、名前は俳句よりさらに短いわけです。
命名の苦労は、文芸における創作の苦労とまったく変わりません。誰でも、わが子に納得のいく名前をつけようとします。先祖や親の名前や生まれた季節にちなんだり、たとえば「真」「善」「美」といったキーワードを入れたり、語感で飾ろうとしたりするわけです。
つまり、名前とは親が「このような人間に成長してほしい」という願いを込めた究極の文芸作品だといえるでしょう。そんな名前は、すべての人にとっての宝物です。人間にとって最も目に心地よい映像は自分の姿であり、最も耳に心地よく最も大切な響きを持つものは自分の名前だといいます。
あなたがOLなら、会社の上司や同僚をきちんと名前で呼んでいますか。後輩の山本さんに何か仕事を依頼するときも、「あなた、お願いね」ではなく、「山本さん、お願いしますね」というべきです。これは、家族でも友人でも知人でも同じこと。人を呼ぶときは、必ず名前で呼んでください。相手を名前で呼ぶことこそ、人間関係を良くする基本中の基本なのです。
誰でも、恋人は名前で呼ぶでしょう。だから、恋人同士は仲が良いのです。では、夫婦の場合は?もちろん名前で呼び合うのが理想ですが、脚本家の橋田壽賀子さんは「夫婦で名前を呼び捨てにするのはいけない」と著書『夫婦の格式』で述べられています。