第6回
一条真也
「心ゆたかに生きるには」
中国に行ってきました。毎年のように行くのですが、今回は「兵馬俑」を初めて訪れました。言わずと知れた秦の始皇帝の死後を守る地下集団です。土で作られた平均180センチの兵士の数は実に8000におよび、それらが整然と立ち並ぶ様はまさに圧巻です。
2200年以上も前に広大な中国を統一した始皇帝は人類史上に特筆すべき大権力者です。彼がいなければ、中国は現在のヨーロッパのごとく、いまだに複数の国家に分かれていたことでしょう。そして彼は、月から肉眼で見える地球上の唯一の人工建造物である「万里の長城」さえも築いたのです。
それほどの英雄でも、生涯にわたって「老い」と「死」を極度に怖れつづけ、その恐怖を心に抱いたまま死んでいったそうです。そのことは、人の世の常識をはるかに超えた兵馬俑や、徐福に不老不死の霊薬を求めさせた史実からもわかります。人間はいくら権力や金を持っていても、「老いる覚悟」と「死ぬ覚悟」を持っていなければ、心ゆたかに生きることはできないのですね。