第5回
一条真也
「高齢者は人生の勝利者」

 

 以前、白髪にまつわる感動的な話を耳にしました。50歳すぎの女性がいて、その人は11歳のときから難病に取りつかれ、しかも誤診が重なったりして、何度も何度も「あと数日の命」とか「もうダメだ」などと言われながら、奇跡的に生き続けてきました。
 この女性が白髪を発見したとき、「自分もやっと老人になるところまで生き延びたのだ」と感じて、とても嬉しかったのだそうです。おそらく、この方にとって1本の白髪は、きびしい競争を勝ち抜いて得た、特別賞のようなものだったのでしょう。
 生きることは競争の連続です。考えてみれば、射精の瞬間から精子は数億倍というすさまじい競争を勝ち抜いて卵子にたどりつき、見事に受精する。でも、流産も死産もありうる。無事に生まれたとしても、人生はつねに死の危険性に満ちています。
 そういう意味では「老い」という最終のスタジアムに入場してきたランナーたちは選ばれし者であり、人生の勝利者なのです。おめでとうございます。