第3回
一条真也
「老いとは、人間的完成である」
私は古今東西の人物のなかで孔子を最も尊敬しており、何かあれば『論語』を読むことにしています。その『論語』には次の有名な言葉が出てきます。
「われ十五にして学に志し、三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳従う。七十にして心の欲する所に従って矩を踰えず」
60になって人の言葉が素直に聞かれ、たとえ自分と違う意見であっても反発しない。70になると自分の思うままに自由にふるまって、それでいて道を踏み外さないようになった。ここには、孔子が「老い」を衰退ではなく、逆に人間的完成としてとらえていることが明らかにされています。
孔子と並ぶ古代中国の哲人といえば老子ですが、老子の「老」とは人生経験を豊かに積んだ人という意味です。また、老酒というように、長い年月をかけて練りに練ったという意味が「老」には含まれています。
人は老いるほど豊かになるのです。