第11回
一条真也
「丹波哲郎さんが教えてくれたこと」
俳優の丹波哲郎さんが肺炎でお亡くなりになりました。84歳でした。言うまでもなく、数多くの映画やテレビドラマに出演した大俳優であり、死後の世界の真相を説く「霊界の宣伝マン」としても有名でした。霊界についての本を60冊以上出版し、映画まで製作して空前の霊界ブームを巻き起こしました。
実は、私は丹波さんには生前大変にお世話になりました。今からもう15年くらい前のことですが、『ロマンティック・デス』を読まれた丹波さんから連絡をいただき、新宿の中華料理店で会食したことがありました。
そのとき、「こういう本を書くことによって人々の死の不安を取り除いてやることは素晴らしいこと。でも、いつかは執筆だけではなく、大勢の人の前で直接話をしなくてはいけない。私が演説の仕方を教えてあげよう」と言われたのです。その後、新都庁舎の近くにあった丹波オフィスを十数回訪れ、講演のレッスンを無料で受けたのです。
現在の私が多くの講演や大学での講義などの活動ができるのも、丹波さんのおかげと心から感謝しています。大恩人です。レッスン後の「霊界よもやま話」も楽しい時間でした。
「サンレー・サンクスフェスタ」をまだ「大葬祭博」と呼んでいた頃に講演にお呼びしたり、演劇版「大霊界」の協賛をさせていただいたことも、なつかしい思い出です。
その後、私が東京から北九州に居を移したこともあり、丹波さんとお会いする機会は急激に減っていきました。それでも、年賀状や暑中見舞いなどは交わしていましたし、最近では昨年夏に『ロマンティック・デス』が幻冬舎から文庫化されたとき、お祝いのハガキを頂戴しました。丹波さんは文庫化を我が事のように喜んで下さいました。
丹波さんの説く「大霊界」はスケールが大きく、夢がありました。丹波さんは数多くの臨死体験者の証言や、スウェーデンボルグをはじめとする心霊主義の研究書、エジプトやチベットの『死者の書』などの死のガイドブックなどから独自の霊界論をまとめ上げました。
常々、「私は霊能者ではない。霊界研究者にすぎない」と広言されていました。そこに丹波さんの誠実さ、謙虚さを私は感じてしまうのですが、丹波さんの説く大霊界には誰にでも非常にわかりやすいという特徴がありました。
人は死ぬとどうなるのか。
臨死体験者は、川や湖のある「光の楽園」で「光の天使」にその旅の行先についての決断をせまられ、この世界に戻ってきます。だが、死者の場合は、出迎えの霊人とともにその川や湖を渡って、さらにその先へと進みます。精霊界から霊界へと旅を進めるのです。そこから先は丹波さんの著書『大霊界を見た』に次のようにコンパクトにまとめられています。
「あなたは出迎えの霊人とともに大きな山の頂に立つ。あなたと霊人は、個体はそれぞれ別に離れているが、本来はまったく同じものである。だから、彼の発するあたたかさがあなたに流れ込み、不安も淋しさもまったくない。感動と感激で、あなたは叫び、涙するだろう。真に救われた思いを体験するのだ。
いま見渡す霊界層は、まことに広大無辺な驚嘆すべき眺めである。キラキラ輝く海のような光が広がり、その無限のなかに人間界の村落のような無数の村むらが何億と点在する。そのひとつが、あなたの村なのだ。その村へあなたは霊人の案内で、何のためらいもなく一直線に帰って行く。
あなたの村で、あなたは住人たちから歓喜の出迎えを受ける。見よ、何と村人全員があなたと何もかもそっくりなのだ。性格、性情、趣味、嗜好、ほとんどあなたと同じといっていい。だから、村人同士の親密さは人間界の親子の比ではない。人びとは無限の時間をその村で、仲良く、楽しげに暮らすのだ。衣食住の心配もなく、好きなことに専念し、全員が力をあわせ、次つぎと新しいことに取り組みながら・・・。
また、この霊界のさらなる高みには天界層がある。人間界にいるときから、"愛"を意識し、"愛"を行い、"愛"を押し広めて、妬(ねた)み、嫉妬、憎悪の感情を取り除き、素直に明るく、自然にふるまって生きていた人が無条件で行ける世界、霊界で修行を積み、新たに資格を得た人が行ける。そこは至福の世界である。あなたの死後には、そんな世界が待っているのだ。」
私たちはその日のために大いなる存在に生かされているのです。それにしても、何というシンプルで豊かな霊界像でしょうか。
私は、東京の青山葬儀場でとり行なわれた丹波さんの葬儀に参列しました。黒柳徹子さんが弔辞で数々の芸能界における丹波さんの功績を讃えつつも「もっとも偉大な功績は、死は怖くないと人々に説いたこと」だと述べておられました。
また、俳優の西田敏行さんは、丹波さんが霊界の真相を説くことによって「自由で豊かな心を与えていただいた」と感謝し、丹波さんのモノマネで参列者を笑わせながらも、最後には「お見事なご生涯でございました!」と絶叫し、大きな感動を呼びました。
生前から丹波さんは、「自分が死んだら、誕生日みたいにケーキにろうそくを立てて送り出してよ。この世は仮の世で、あの世が本当の世。めでたい日なんだからさ。葬式は電車の乗換駅のようなもんだ」と周囲に語っていたそうです。実際の葬儀は無宗教で、「Gメン75」や「キーハンター」といった主演ドラマの主題歌も流れる音楽葬でした。
丹波さんの笑顔の遺影の前で献花したとき、「霊界はやっぱり素晴らしい所だぞ!もっと修行してから来いよ!」という丹波さんの野太い声が聞こえたような気がしました。