第15回
一条真也
「義を見てせざるは勇なきなり」
さる6月8日、いわゆる「秋葉原無差別殺傷」が発生しました。その結果、7人が死亡、10人が重軽傷を負いました。日本人の「こころの未来」に対する暗雲を感じさせる事件でした。
逆に、救いもありました。警視庁が、事件発生時に被害者の救助に協力した72人に感謝状を贈ったのです。救護中に容疑者に刺されて負傷した3人には警視総監から感謝状が贈られました。
わたしは感謝状を贈られた方々を心から尊敬し、同じ日本人として誇りにさえ思います。中には、被害者の救護中に刺されたため命を落とした方もいました。痛ましい限りですが、この方々は本当の意味で「勇気」のあった人々だと思います。まさに、「義を見てせざるは勇なきなり」。『論語』に出てくる有名な言葉ですが、孔子は「勇」を「正しいことをすること」の意味で使っています。
孔子の思想を継承した孟子は、性善説で知られています。彼は、人間には誰でも「かわいそうだと思う心」「悪を恥じ憎む心」「譲り合いの心」「善悪を判断する心」の四つの心が備わっているものだと述べました。そして、その四つの心は「仁」「義」「礼」「智」の芽生えだというのです。
加藤智大容疑者の狂行は、人間に対する深い絶望を感じさせました。その一方で、勇気ある人々の正しい行動が希望を残してくれたように思います。