現代の文明は、その存在理由を全体的に問われていると言えるでしょう。近代の産業文明は、科学主義、資本主義、人間中心主義によって、生命すら人為的操作の対象にしてしまいました。そこで切り捨てられてきたのは、人間は自然の一部であるというエコロジカルな感覚であり、人間は宇宙の一部であるというコスモロジカルな感覚です。
そこで重要になるのが、死者と生者との関わり合いの問題です。日本には祖霊崇拝のような「死者との共生」という強い文化的伝統がありますが、どんな民族にも「死者との共生」や「死者との共闘」という意識が根底にあると言えます。
20世紀の文豪アーサー・C・クラークは、『2001年宇宙の旅』の冒頭に、「今この世にいる人間ひとりの背後には、20人の幽霊が立っている。それが生者に対する死者の割合である。時のあけぼの以来、およそ1000億の人間が、地球上に足跡を印した」と書いています。私はこの数字が正しいかどうか知りませんし、また知りたいとも思いません。重要なのは、私たちのまわりには数多くの死者たちが存在し、私たちは死者たちに支えられて生きているという事実です。
多くの人々が孤独な死を迎えている今日、動植物などの他の生命はもちろん、死者たちをも含めた大きな深いエコロジー、いわば「魂のエコロジー」のなかで生と死を考えていかなければなりません。